『奉祝紀元二千六百年 前進座 秋季大衆興行』東京劇場 昭和15年11月発行
今回ご紹介するパブリックドメインの古雑誌は、劇場のパンフレット?的な小冊子です。演劇に興味があるわけではないのですが、たまたままとめて入手したものにあった一冊です。
なんと演目には、管理人ホシガメが敬愛する、廣澤虎造先生が特別出演する浪曲劇が含まれております!生まれてませんので当然無理なのですが、リアルタイムで見たかったですねぇ~。
今となっては、パンフレットの内容から想像するしかありません……。
でも、通常の浪曲口演や映画出演以外にも、廣澤虎造先生の活躍の場が広かったことが知れて良かったです。
表紙

シンプルながらも斬新なデザインの表紙です。
夜空を模した背景に赤い矢印を配置し、恐らく手書きであろう「前進座」のフォントが白抜きになって配置されています。
左上にあるのは、当時の前進座のロゴというかアイコンなのでしょうか?矢印モチーフのように思えますが、デザインされたマークが入っています。(調べてみましたら、今でもほぼ同一のロゴデザインが使われているようですね)
もう一つ特徴的なのは、「奉祝 紀元二千六百年」と入っているところ。当時は神武天皇即位紀元(皇紀)2600年を祝った一連の行事が各種開催されていたようです。時代ですねぇ~。
内容
最初の見開きから
薄い冊子なので、今回は前ページスキャンして掲載します。

右ページは、平時なら普通の広告が入る場所なのでしょうが、時代の空気が感じられるプロパガンダになっており、分かりやすいイラストに地味なフォントで、
銃後奉公強化
スパイの手に乗るな
と戦時色全開のコピーが入っております。
左ページは、パンフレットの定型フォーマットらしい、東京劇場の外観写真となっています。

次の見開き右ページは、歌舞伎座・明治座・新橋演舞場の外観写真が続きます。
左ページには、松竹系の劇場と映画館の主だったところが、住所と共に列挙されてます。
演目など

演目は三つあって、
一、成吉思汗…… 四幕十場
二、父なきあと……七景
三、仇討高田馬場 廣澤虎造特別口演……六場
と右ページに記載されています。一つ目の演目が「成吉思汗」なのですが、読み方はチンギスハーンでもなくジンギスカンでもなく、ヂンギスカンなのですね。(なんか古い時代のこういうところが琴線に触れますなw)
左ページは演目の概要を含めた挨拶分が記載されてます。
御 挨 拶
今度は御繁忙中御観劇にお運び下さいまして有難く御禮申上げます。
一番目は亜細亜民族が生んだ曠古の大英雄成吉思汗の逆境に抗して起ち上る困苦と覇気を描いた興亜の精紳に脈々たる興味篇であり、中幕は靖國の妻の正しくも男々しい更生の姿を示して余りあると存じます。
二番目は昨秋大好評を博せる廣澤虎造師と組んだ一年振りの浪曲劇で、銃後慰安の絶對版として、久々の東京公演に新作揃ひにて御鑑賞を仰いで居ります。
新體制下盆々明朗健康なる慰安が求められて居ります昨今、私共も微力乍ら演劇文化の一翼として懸命に相勤める覚悟で御座います故、何分共に御高評賜り度御願い申上げる次第に御座います。
昭和十五年十一月
前進座一同
これを読むと、廣澤虎造先生とのコラボ浪曲劇は、前年に続く二回目だということがわかります。「好評につき……」って事なのでしょうね。

見開きの一覧で、配役の詳細が記載されてます。以下右ページ上段のみ以下に書き出しますと、
河原崎長十郎
河原崎國太郎
中村翫右衛門
坂東調右衛門
市川菊之助
山崎長兵衛
中村進五郎
……
当時のビッグネームの方々なんでしょうかね。
成吉思汗

挿絵(なぜか挿絵の下には、物語と関係ない戦時スローガンが記載されてます……意味ワカランw)をはさんで、一番目の演目である「成吉思汗」の詳細が解説されます。


古風な挿絵がいいですね。水墨画風のタッチでしょうか。

父なきあと
戦時色を反映した演目ですね。

第一景 陸軍病院の一室
(初秋の頃)
第二景 黒 幕 の 前
第三景 下河原修三の家
第四景 黒 幕 の 前
第五景 村の街道筋
第六景 黒幕の前(峠道)
第七景 某新聞地方支局
の階上(夜)
下河原修三(軍曹) 山崎 進蔵
同 せつ子(その妻) 山木 貞子
同 修平(その長男) 中村 梅之助
同 正作(その次男) 水谷 史郎
同 アキコ(その長女) 町田 いさ子
仙骨堂老人(せつ子の親戚)河原崎 長十郎
まんどころ(老人の妻) 岬 たか子
吉潭俊介(せつ子の親戚) 嵐 芳三郎
同 おきく(俊介の妻) 岩田 冨貴子
野尻盛治(町の人) 瀬川 菊之丞
郵便局長 市川 笑太郎
中村梅之助さんは、もしかしたら後にテレビ時代劇の「遠山の金さん」や「伝七捕物帳」を演じられた梅之助さんでしょうかね??